自分でお金を貯めて、初めて買ったというトヨタのエスティマルシーダ。
成約までスムーズにいった後に、突然泣き出してしまわれました。よほど愛着があった車らしく、何度も見ては、愛おしそうにさすりまた顔を曇らせておりました。
大切に乗っていたことは明白なくらい、人となりがお車の状態に表れていましたね。そんな想いが私にも伝わり、不覚にも目が潤んでしまいました。大丈夫、買取という形で出会った私たちだけれど、気持ちはしっかりと引き継ぎますよ。
そんなとき言葉をかけるのは野暮ってものです。好きなだけお別れの時間を、愛車と共に過ごしていただいた後、今度は私がその車に乗って。
私はまず語り掛けるんですよ、初めに。
来てくれてありがとう。元気な子だね。これからも、よろしくね。

車にも動かなくなるその時があるように、人にも終わりの時は訪れます。
知り合いを介した相談でつながった、特殊車両の査定にて。向かった先は、重厚な作りの平屋一軒家。出迎えてくれた人の多さから、素敵な家庭だとすぐに気付きました。御爺様が畑仕事で使っていた相棒。まずは墓前に御線香をあげ、お話を伺うことに。「不愛想で、頑固なひとでしたね」「無口で、あまり笑わなかった」
家族から次々と出てくるお話を、黙って伺います。
「でもね、いなくなると寂しいもんだわね」「熱を出した時はずっとそばにいてくれたことがあったわ」とたんに、しんみりとした雰囲気。御爺様は、何も言わぬ背中で家族を守っていたのでしょう。
大丈夫、あなたの守った家族は、こんなにも元気で暮らしておりますよ。